Research

新学術領域研究 バイオアセンブラ
事業名:独立行政法人日本学術振興会 新学術領域研究 (研究領域提案型)
研究課題:インクジェットLbL法による多機能性3次元皮膚モデルの高速構築と複合的機能発現
研究代表者:松崎典弥
研究期間:平成26年度~27年度(2年)

山中教授によるヒト人工多能性幹(iPS)細胞の樹立により、iPS細胞の再生医療や創薬・化粧品分野の効果・毒性判定への応用が期待されている。これらの応用を実現化するためには、生体外でヒト組織・臓器に類似した三次元組織体を構築する必要があるが、iPS細胞技術だけでは不可能である。つまり、iPS細胞技術とは別に、様々なヒト細胞を三次元的に組織化する「三次元組織構築技術」を確立することが重要である。米国では、既にハーバード大学Wyss Instituteにアメリカ食品医薬品局(FDA)と国立衛生研究所(NIH)の巨額の研究費が投じられ、「Organ on a chip」という、動物実験に代わるヒト細胞のチップを用いた医薬品評価を実現するプロジェクトが進行している(D. E. Ingber et al., Science 328, 1662 (2010))。iPS細胞で優位に立った日本がそのリードを維持して激しい国際競争に勝つためには、国際競争力に優れた普遍性の高い三次元組織構築技術の確立が急務である。
特に、三次元組織構築技術の開発と評価試験法の確立が急務の課題として求められているのは化粧品分野である。EUでは、2003年3月に化粧品指令7次改正が発効され、EU域内での動物実験の禁止と動物実験代替法の開発が求められ、2013年3月11日より全ての評価試験において動物実験が禁止された。国内でも資生堂㈱と㈱マンダムが動物実験の廃止を既に決定している。この動物実験代替の流れは化粧品だけでなく創薬分野にも波及しており、日本製薬工業協会(製薬協)は、創薬研究における動物実験の減少と代替法の活用を推進している。
2007年に、EPISKINなどの培養表皮モデルを用いたin vitro皮膚刺激性試験が欧州代替法評価センター(ECVAM)にて承認されたが、適用範囲が極めて限定的であり、強刺激試験での細胞生存率しか評価できない。既存の皮膚モデルは、構造が不均一で再現性に乏しく、また、血管、リンパ管、免疫細胞などの附属器を有しておらず、アレルギー反応などの微小応答の評価が困難である。従って、附属器を有し、アレルギー反応や炎症応答、脈管応答などの機能を複合的に評価可能な「多機能性の3次元皮膚モデル」の構築が急務の課題である。
当研究者は、細胞膜表面のマイクロ環境を制御し、機能発現に重要な役割を果たしている細胞外マトリックス(ECM)に着目し、ナノ薄膜による細胞界面の制御と三次元組織体を構築する革新的手法を考案した。具体的には、細胞膜表面に数nm~数十nmのナノECM薄膜を形成する手法である。これまで、フィブロネクチン(FN)-ゼラチン(G)薄膜を細胞表面にわずか6 nm形成することで、細胞間の接着を誘起し、複数種類の細胞で構成される三次元組織体の構築を初めて実現した(「細胞積層法」、(Angew. Chem. Int. Ed. 46, 4689 (2007) (IF2012=13.734))(図1)。また、粒子状態の細胞表面にFN-Gナノ薄膜を形成して細胞間接着を三次元的に誘導することで、1日で20層以上(>100 μm)の組織体構築を実現した(「細胞集積法」、Adv. Mater. 23, 3506 (2011) (IF2012= 14.829))も考案した。血管内皮細胞やリンパ管内皮細胞をサンドイッチ培養することで毛細血管・リンパ管構造の構築にも成功している(図1)。さらに、インクジェットプリントを用いた細胞プリントによる三次元組織チップ構築の基礎技術の確立に取り組み、400個のマイクロ三次元組織体を1枚のチップに集約した「三次元組織チップ」を構築し、薬剤応答評価に有用であることを見出した(Adv. Healthcare Mater. 2, 534 (2013)、挿絵に採用)(図1)。本細胞プリント技術をさらに改善することで1.6 ± 0.7個/滴という極めて高い精度で細胞の三次元配置を制御することに成功し、「1細胞レベルでの精密な立体構造制御」の基礎技術を確立した(最先端・次世代研究開発支援プログラム)。

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図1. 細胞積層法、細胞集積法、細胞プリント法のイメージ。

本研究では、「細胞積層法、細胞集積法、細胞プリント法」を活用した「多機能性3次元皮膚モデルの高速構築と複合的機能発現」を目的とする。具体的な内容は以下のとおりである。
i) 1細胞レベルで制御された多機能性3次元皮膚モデルの高速構築
インクジェットプリントを用いて免疫担当細胞、毛細血管・リンパ管構造を有する多機能性皮膚モデルを構築する。細胞集積法で確立した毛細血管・リンパ管網を有する皮膚モデルの手動構築(図1)を細胞プリント技術に適用し、高速構築の実現を目指す。具体的には、24~96ウェルに分化誘導前の皮膚構造を数時間~1日で作製することを目標とする。
ii) 多機能性皮膚モデルを用いた複合的機能発現
i)で得られた多機能性皮膚モデルを用いて、複合的な機能発現を明らかにし、機能性皮膚モデルとしての有用性を検証する。具体的には、「薬剤の経皮吸収から毛細血管網への移行」や「樹状細胞による免疫源の取り込みと活性化樹状細胞のリンパ管への移動評価」、「がん細胞の浸潤と血管・リンパ管への転移」などの複合的な機能評価を達成する。

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科研費プロジェクト(基盤B)
事業名:独立行政法人日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究 (B)
研究領域:複合領域、人間医工学、生体医工学・生体材料学
研究課題:生体外での増殖・浸潤・転移挙動評価を可能とする革新的ヒト3次元腫瘍モデルの創製
研究代表者:松崎典弥
期間:平成26年~平成28年度(3年間)

山中教授によるヒト人工多能性幹(iPS)細胞の樹立により、iPS細胞の再生医療や創薬・化粧品分野の効果・毒性判定への応用が期待されている。これらの応用を実現化するためには、生体外でヒト組織に類似した三次元組織体を構築する必要があるが、iPS細胞技術だけでは不可能である。つまり、iPS細胞技術とは別に、様々なヒト細胞を三次元的に組織化する「三次元組織構築技術」の確立が求められている。米国では、既に、ハーバード大学Wyss Instituteにアメリカ食品医薬品局(FDA)と国立衛生研究所(NIH)の巨額の研究費が投じられ、「Organ on a chip」という、動物実験に代わるヒト細胞のチップを用いた医薬品評価を実現するプロジェクトが進行している(D. E. Ingber et al., Science 328, 1662 (2010))。iPS細胞で優位に立った日本がそのリードを維持して激しい国際競争に勝つためには、国際競争力に優れた普遍性の高い三次元組織構築技術の確立が急務である。
厚生労働省の平成23年度人口動態統計月報年計によると、癌および悪性腫瘍(悪性新生物)は昭和56年より死因の第一位を維持し続け、平成23年の統計でも28.5%と増加の一途をたどっている。他の疾患と比較して有効な治療法の開発が困難な理由として、効果的な動物腫瘍モデルが少ないことやヒトと動物の種差の影響があげられる。これまで、様々な手法により生体外での三次元ヒト腫瘍モデルの構築が検討されてきた。しかし、そのほとんどは凝集体であるスフェロイドを用いた報告であり、腫瘍組織の形成と浸潤・転移機能に重要な毛細血管・リンパ管網構造を有しておらず、生体の腫瘍組織とは構造および機能の面でかけ離れていた(H. Dolznig et al., Drug Discov. Today 8, 113 (2011))。従って、毛細血管・リンパ管網を有し、腫瘍細胞に特徴的な「過増殖性」、「浸潤性」、「転移性」を再現できる三次元ヒト腫瘍モデルを構築できれば、新たな抗がん剤や治療法の開発への多大なる貢献が期待される。
当研究者は、細胞膜表面のマイクロ環境を制御し、機能発現に重要な役割を果たしている細胞外マトリックス(ECM)に着目し、ナノ薄膜による細胞界面の制御と三次元組織体を構築する革新的手法を考案した。具体的には、細胞膜表面に数nm~数十nmのナノECM薄膜を形成する手法である。これまで、フィブロネクチン(FN)-ゼラチン(G)薄膜を細胞表面にわずか6 nm形成することで、細胞間の接着を誘起し、複数種類の細胞で構成される三次元組織体の構築を初めて実現した(「細胞積層法」、(Angew. Chem. Int. Ed. 46, 4689 (2007) (IF2012=13.734))(図1)。また、本手法を改善し、粒子状態の細胞表面へFN-Gナノ薄膜を形成して細胞間接着を三次元的に誘導することで、わずか1日で20層以上(>100 μm)の三次元組織構築を達成した(「細胞集積法」、A. Nishiguchi et al., Adv. Mater. 23, 3506 (2011) (IF2011=14.829))。ヒト血管内皮細胞やリンパ管内皮細胞をサンドイッチ培養することで3次元毛細血管・リンパ管構造の構築にも成功した(図1b-d)。
本研究では、細胞積層・集積法を応用し、「生体外で増殖・浸潤・転移挙動を評価可能な革新的ヒト3次元腫瘍モデルの創製」を目的とした。本研究により、腫瘍細胞に特徴的な過増殖性、浸潤性、転移性を生体外で評価することが可能となり、抗がん剤やドラッグデリバリーシステム(DDS)の抗腫瘍効果を経時的かつ定量的に解析できれば、実験動物に代わり、ヒトへの薬効、安全性、毒性、薬物動態を迅速に評価可能な革新的な創薬デバイスとなることが期待され、創薬や医療産業の活性化に貢献できる。さらに、特許期限切れ薬剤の癌治療への新たな治療効果のスクリーニング評価への応用や、基礎医学、生理学分野、病理学分野の発展への貢献も期待される。

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図2. 細胞積層法のイメージ (a)。細胞集積法のイメージ (b)。ヒト血管内皮細胞 (HUVEC) やリンパ管内皮細胞 (NHDMEC) のサンドイッチ培養による三次元毛細血管・リンパ管組織の免疫染色写真 (c) と蛍光免疫染色写真 (d)。